キクチ・ヒサシ

文化と芸術を言祝ぐ『コトバの塔』

レディオヘッド:A moon shaped pool

Radiohead「Daydreaming」(2016)の歌詞と映像。現代シャーマンの「Half of my life」

2016/07/09

名曲「Daydreaming」は、レディオヘッド新譜「A moon shaped pool」の2曲目である。この曲に魅了され何度も聴きこむ。逆再生で聞き取れない最後の歌詞「Half of my life」、ポール・トーマス・アンダーソン監督のMV、次第に浮かび上がってくる、現代のシャーマンの姿。「不穏」などと表現されるこの楽曲が、しかし人の心を掴んでしまうのは、深層から汲まれたせいなのだろう。

男が歩いている。彼はトムヨークという名で呼ばれているとわかっている。ドアを開けると、人々が生活している。子供がいて、大人がいて、職業があり、居間がある。男はそこを通り抜けていく、次々とドアを開けて、ここからあそこへ、あそこからここへ、ドアを通じて、部屋から部屋へ、渡り歩いていく。シャーマンは、夢の世界を飛翔し、世界中に自由自在にアクセスすることができる。そうして、人々に美による癒しを施すために、深い自然の中に入り、この星の火と水に寄り添い、社会から排除された危険な領域にこもる。社会人は、楽しい歌を歌い続けなければならない。自然に選ばれたシャーマンは、人里離れ、哀しみと楽しみの二つに分かれる前の、この世界の根源、全てが結びついた深い泥の中に沈んでいく。そこからシャーマンが掬い取ってきた黄金は、わたしたちがうまれてきた故郷の泥から取り出されているため、わたしたちの心の奥深くに響き、共鳴し、明るいと暗いを分ける前の所に浸透してくる。シャーマンはなりたくてなるものではない。ただ、彼の生命の半分が、そのように使役され、運ばれていく。多くの詩人がそうだったように、白昼夢の中で、彼は手にした成果を人類の意識に付け加える。湖の底から斧や剣を手にしたものがあり、太古には火を手にしたものがいた。そのように「Daydreaming」が時間と空間を超えて、現代のシャーマンからわたしの元に届けられた。

Daydreaming歌詞

Thom Yorke    キクチ・ヒサシ訳

Dreamers     ドリーマーズ
They never learn  決して学ばない
They never learn  決して学ばない

Beyond the point  点を越えて
Of no return ノーリターンの
Of no return ノーリターンの

And it's too late  それは手遅れで
The damage is done ダメージが生じる
The damage is done ダメージが生じる

This goes
Beyond me  わたしを超えて
Beyond you  あなたを超えて

The white room       白い部屋
By a window   太陽が窓を通って
Where the sun comes Through

We are               わたしたちはただ
Just happy to serve 捧げることがうれしい
Just happy to serve あなたに捧げることが
You

Efil ym fo flaH   わたしの生命の半分
Efil ym fo flaH   わたしの生命の半分

 

DaydreamingMV:監督ポール・トーマス・アンダーソン

-レディオヘッド:A moon shaped pool